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新しい熱中症対策。体内から冷やす「プレ・クーリング」って?

猛暑が本格化し、ニュースでも繰り返し熱中症のリスクが叫ばれるようになりました。

水分補給を心がけていても、いつの間にか症状が悪化するのが熱中症の怖さ。

水分・ミネラル補給からさらに一歩進めた、より効果的な熱中症対策はないのでしょうか?今回取り上げるのは、“人間の深部体温を下げる”という熱中症対策の新しいアプローチ。

消防隊員の身を守るために特別に開発された、ちょっと変わった飲み物についてもご紹介します。

“うつ熱”が死をもたらす熱中症目次・“うつ熱”が死をもたらす熱中症・脱水症状は「水分補給」だけでは防げない・「アイススラリー」が消防士を救う?imageviashutterstock「体温上昇には“発熱”と“うつ熱”の2種類があります。

“発熱”は細菌感染時などにわざと熱を起こして菌を死滅させようとする働き。

“うつ熱”は食べ物を消化したり運動した際に、体内に発生する熱を外に出す物理現象がうまくいかないときのバランスの乱れをいいます。

熱中症は、この“うつ熱”による症状です」そう語るのは、熱中症を研究して30年の堀江正知教授(産業医科大学)。

熱中症を診断する目安として、脇の下などの皮膚温をはかる人が多いけれど、熱中症で問題になるのは深部体温(体の内部の温度)だと話します。

「人間の平時の皮膚温は36度台で、深部体温は37度台前半。

その深部体温が38.5度くらいまで上昇すると、体の細胞一つひとつの働きがおかしくなり、正常な判断ができなくなります。

体温調節をする細胞も働かなくなり、深部体温が一気に40度、42度と上昇して、細胞の機能が停止する。

生卵をゆでると固まるように、細胞も42度でたんぱく質が固まって死んでしまいます。

死んだ細胞が多ければ臓器が死に、その臓器が重要なものであれば命が終わるというのが、熱中症のメカニズムなのです」(堀江先生)脱水症状は「水分補給」だけでは防げないimageviashutterstock堀江先生いわく、熱中症の症状として最初に起こるのは脳の症状。

頭痛、吐き気、めまいを感じ、反応も鈍くなります。

「大事なのは、熱中症になるかどうかは個人差があるということ。

体質の差や、その日のコンディションによる違いもあります。

とくに年齢による違いは研究ではっきりと差が出ていて、40代以降は汗をかけなくなるなど、暑さへの対応力が落ちるんです」(堀江先生)汗をかくと、気化熱で体表面の熱を下げることができます。

しかし、汗の原料となる水は血液を材料にしているため、汗をかきすぎると脱水症状に。

脱水症状が進行すると“うつ熱”の症状がおきて、熱中症になってしまいます。

堀江先生によると、脱水症状を防ぐポイントは、汗をかいたあと水とナトリウム(塩分)を適度に戻すこと。

水ばかり飲んでいると、尿の量が増えて脱水症状が悪化することがあります。

「一度に大量の汗をかくと、水分といっしょに血液に含まれるナトリウムも排出されてしまいます。

脱水症状と言うけれど、ミネラルの主成分であるナトリウムが欠乏する症状でもある。

運動習慣がある人はとくに発汗量が多いので、水とナトリウムをたくさん補給しないと間に合いません」(堀江先生)たくさん汗をかくときは、20~30分ごとにナトリウムを含んだ水分摂取をする必要があると堀江先生。

のどが渇くまで待っていてはいけない、渇きを感じる前に定期的に摂取する必要があると話します。

「アイススラリー」が消防士を救う?imageviashutterstock深部体温が42度を超えると、重度の臓器障害をもたらす熱中症の危険区域。

たった1時間の作業でこの域に達する、過酷な環境下で働いているのが消防士の方たちです。

「消防服は汗や蒸気を外に逃がさないので、わずか18分の消防活動で熱中症の警戒体温になってしまいます。

水分補給をするだけでは、消防士の体温上昇は防げない。

そこで注目されるのが“プレ・クーリング”です」(堀江先生)これまでも冷却服などを使った体外冷却法はありましたが、筋代謝活性の低下などネガティブ面もありました。

しかし最近研究が盛んな“プレ・クーリング”、体の内側から冷やす方法なら、筋代謝活性を維持したままで深部体温の上昇を抑えることができます。

プレ・クーリングのために使われるのは、液体のなかに微細な氷の粒をたくさん混ぜた「アイススラリー(アイススラッシー)」と呼ばれる粘度の高い飲み物です。

「氷だと水のように短時間に摂取できませんが、スラリーは流動性があり、喉から食道、胃、腸へとはりつきながら流れていきます。

その結果、粘膜への接地面が多く、粘膜から体液に吸収されて、効果的に冷却できるのです」(堀江先生)堀江先生は実際に北九州市消防局の全面的な協力を得て、アイススラリーを消防士の方に飲んでもらい、夏の現場環境に近づけた状態で実験を行いました。

すると、アイススラリーの事前摂取で体温が約0.5度下がり、摂取後も他の条件より体温が低いまま維持できたそう。

脚がつるような症状の発生頻度を下げることができ、脱水が抑制されることから脳への血液の循環も回復されやすくなったといいます。

このアイスラリーを、消防士などの暑熱環境下で働く人々に向けに商品化したのが大塚製薬製薬株式会社の「ポカリスエットアイススラリー」。

今年6月から消防関係者向けに販売が開始されたものですが、今年7月から期間限定で大塚製薬の公式通販「オオツカ・プラスワン」で個人購入も可能です。

海外の軍隊などでは、すでに熱中症予防措置のひとつとして推奨されているという「アイススラリー」。

連日の猛暑に身を置いていると、身体を芯から冷やす新しいドリンクとしてコンビニに置いてもらえたら……と期待してしまいます。

堀江正知先生医学博士。

産業医科大学産業生態科学研究所産業保険管理学研修室教授。

環境省・厚生労働省の熱中症対策指針作成メンバー。

熱中症に関する著書に『熱中症を防ごう熱中症予防対策の基本』(中央労働災害防止協会)など。

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