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<直木賞受賞>島本理生さん “初恋”という意味のタイトルをつけた理由

島本理生さん撮影/北村史成臨床心理士の真壁由紀は、父親を刺殺した女子アナ志望の女子大生・聖山環菜に関するノンフィクション本の執筆を依頼された。

自身の過去を振り返りつつ、環菜とその周辺の人々と接するうちに、意外な真相が明らかになっていくが……。

第159回直木賞に選ばれた島本理生さんの最新作『ファーストラヴ』(文藝春秋)は、家族という名の迷宮を描いた傑作長編だ。

■女性が女性を救う物語を描きたかった「これまでいろいろな形の恋愛小説を書いてきたのですが、次第に女性のなかには恋愛では救いきれないものがあると思うようになりました。

今回、いちばん最初にあったのは、男性には理解できない女性の心理や問題を女性が救う小説を書きたいという思いでした」物語は臨床心理士である由紀の視点で綴られている。

島本さん自身、もともと心理学や精神医学に関心があったのだという。

「10代のころ、図書館の心理学のコーナーで臨床心理学の本に出あい、小説と並行して読むようになりました。

例えば、あまりにもショックな出来事を経験すると人は記憶がなくなるとか、その記憶が10年後、20年後に突然よみがえることもあるとか。

そんなことが人間の脳に起こるなんてと衝撃を受けるとともに、おもしろさを感じました。

これまでの小説は恋愛メインのものが多かったのですが、以前から心理学や精神医学を通して主人公の内面を探っていくような、スリリングな展開の小説にも挑戦してみたいと考えていました」別の作品の取材で訪れた裁判傍聴の経験も、本作に大きな影響を与えることになった。

「当時、傍聴していたのはとある殺人事件の裁判だったのですが、報道されていることと裁判の現場でわかる話はまったく違うことを知りました。

外側から見ただけでは、当事者たちに何が起こり、それぞれが何を考えてどういう行動をしているのかが全然、わからないものなんです」そして、複数の裁判を傍聴するうちに、裁判自体にも興味をひかれていった。

「例えば、被告人が“自分がやりました。

すべて検察官の言うとおりです”と認めていればいいのですが、被告人は“殺してません”、検察側は“殺しました”となった場合、お互い、その根拠を立証していきます。

そうなった場合、被告人が殺人を犯しているのかそうでないのか、正直なところ私には判断かつかない事件もありました。

そうした裁判を傍聴するうちに、弁護側と検察側の主張が真っ向からぶつかるような場面を書いてみたいと思うようになりました」■母と娘の関係性が事件の裏側に潜む本作の執筆にあたり、島本さんは新たに殺人事件や窃盗などの裁判の傍聴に足を運んでいた。

「当時、調べていた事件は地方で発生したものが多かったんです。

私には小学校1年生の息子がいるのですが、息子の世話を夫に頼んで泊まりがけで出かけたり、朝6時に出発し地方裁判所に9時半に着いて傍聴したこともありました」また臨床心理士や精神科医や弁護士などにも取材を重ね、執筆に臨んだという。

それでも、裁判の場面の執筆にはかなり苦戦をしたのだそうだ。

「裁判の場面を書いた後、担当編集の方から、便箋3枚にも及ぶダメ出しのお手紙が届いたんです。

自分なりに一から裁判を組み立てて書いたつもりだったのですが、現実の裁判とは流れなどが違っていた部分もあって、そこからまた大幅に改稿しました」この物語は、環菜の父親刺殺事件が世間で話題となっている場面から始まる。

「加害者の女の子が父親を殺したところからスタートするという設定は、構想のはじめの段階からありました。

これも臨床心理学の本を読んで知ったことなのですが、家庭内暴力や性の虐待などがある家庭では、母親が見て見ぬふりをしているケースが意外と多いらしいんです。

その結果、子どもが精神を病んでしまう。

つまり、一見、父親との間に問題があるように思えても、その背景には母親との問題が潜んでいることもあるんですね。

娘が母親との関係性の危うさに気づいていないことが多いという事実も、この小説の中で書きたいと思いました」本書には、環菜の危うげな男性遍歴や、環菜の国選弁護人で由紀の学生時代の同窓生であり義弟でもある、庵野迦葉と由紀との若かりしころの出来事も描かれている。

タイトルの『ファーストラヴ』には、次のような思いが込められているのだそうだ。

「例えば、愛情のように見せかけて実は身体が目当てだったりとか、特に若いころには、恋愛と見せかけた危ないものが周りにたくさんあるものです。

そのため、恋愛とは似て非なるものを混同している女性って、実はすごく多いんじゃないかと思うんです。

“あのときの恋愛は実は恋愛ではなかったのかもしれない”“本当は悲しい気持ちを押し殺していたのかもしれない”。

読んだ方に少しでもそうした気づきがあればと思い、この小説に“初恋”という意味のタイトルをつけました」■ライターは見た!著者の素顔息子さんが小学生になり、生活がにわかに忙しくなったという島本さん。

「朗読の練習など毎日、宿題が出るのでそれを見たりとか、やることがたくさんあるんです。

リビングのテーブルで私がゲラに赤字を入れ、その隣で息子が宿題をしたりしていて、こういうのもわりと楽しいかもしれないと思うようになりました。

息子自身は大変だと思うのですが、日々、成長が見られるのはおもしろいですね。

元気に健康に、普通に働く人に育ってほしいです(笑)」。

しまもと・りお◎1983年東京都生まれ。

2001年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作を受賞。

2003年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、2015年『Red』で島清恋愛文学賞受賞。

『ナラタージュ』『真綿荘の住人たち』『アンダスタンド・メイビー』など著書多数。

(取材・文/熊谷あづさ)この記事もおすすめ「直木賞・島本理生氏「ガッツポーズしました!」 デビューから18年振り返り感無量」>>この記事が気に入ったら、こちらもチェック!今ならなんと初回20%off!「子ども服」をおトクに手に入れるには?定価で買うにはちょっと手がでないブランド服から普段着まで! いろいろ揃ってます。

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